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京都地方裁判所 平成4年(行ウ)18号 判決 1993年2月26日

原告

樹創建設株式会社

右代表者代表取締役

山澤文夫

右訴訟代理人弁護士

中村愈

被告

京都市長

田邊朋之

右訴訟代理人弁護士

彦惣弘

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、平成四年三月一二日付京都市達住建監第三九二号及び京都市達都景風第三五三号納付命令書により、原告に対してなした納付命令(以下、本件納付命令という)は、いずれもこれを取り消す。

第二事案の概要

一請求の類型

本件は、被告が発した、行政代執行法第五条に基づく費用納付命令に対する取消訴訟である。

二前提事実(争いがない事実)

1  原告は、次のAないしH記載の建築物(以下、本件建築物という)を建築した。

A 場所 京都市左京区北白川中山町一番地六〇八

用途 事務所、住宅及び倉庫等

構造 木造二階建

規模 延べ面積 827.11平方メートル

B 場所 京都市左京区北白川中山町一番地一三

用途 ステージ

構造 木造一階建

規模 延べ面積 64.20平方メートル

C 場所 京都市左京区北白川中山町一番地二四

用途 住宅(離れ)

構造 木造一階建

規模 延べ面積 58.84平方メートル

D 場所 京都市左京区北白川中山町一番地二四

用途 倉庫

構造 鉄骨造地下一階建

規模 延べ面積 328.93平方メートル

E 場所 京都市左京区北白川中山町一番地二四

用途 倉庫

構造 鉄骨造一階建

規模 延べ面積 31.80平方メートル

F 場所 京都市左京区北白川中山町一番地二四

用途 倉庫

構造 鉄骨造一階建

規模 延べ面積 25.83平方メートル

G 場所 京都市左京区北白川中山町一番地二四

用途 作業所

構造 鉄骨造一階建

規模 延べ面積 132.73平方メートル

H 場所 京都市左京区北白川中山町一番地二四

用途 ポンプ小屋

構造 鉄骨造一部木造 地下一階地上一階建

規模 延べ面積 47.22平方メートル

2(一)  右各建築場所は、市街化調整区域(都市計画法第七条三項)内にあるが、原告は、市街化調整区域のうち、開発許可を受けた開発区域以外の区域内において、都市計画法第四三条に基づく許可を得ることなく、本件建築物を建築した。

(二)  また、右各建築場所は、風致地区(都市計画法第九条一五項)に定められており、京都市は、都市計画法第五八条一項の規定に基づき、風致地区内において建築物その他の工作物の新築、改築、増築等の行為をしようとする者は、市長の許可を受けなければならない旨を定めている(京都市風致地区条例第二条一項一号)。しかし、原告は、右許可を得ることなしに本件建築物を建築した。

3  被告は、原告に対して、平成三年三月二六日付で、京都市達住建監第三二七号及び京都市達都計風二八三号命令書により、本件建築物を除却することを命令した。その履行期限は、同年九月三〇日であった。

4  原告は、右命令の履行期限までに除却義務を履行しなかったので、被告が代執行による本件建築物の除却を予定していたところ、原告は、本件建築物のうち、A・E・F・G・Hの建物について自ら除却した。

5  被告は、本件建築物のうち、残りのB・C・Dの建物について、平成三年一月一三日から同月二一日までの間に、代執行により除却した。

6  被告は、右代執行に要した費用(二、六八二万二、六三八円)について、本件納付命令を発した。

三争点

代執行行為が違法であることが、その代執行費用の納付命令の違法事由となるか。

四争点に関する当事者の主張

1  原告

(一) 原告は、被告が本件代執行に着手する以前の平成三年一〇月下旬頃から、順次本件建築物の撤去作業を施行しており、被告が代執行に着手したときには、右作業は相当程度進捗しており、原告が施行する撤去作業により本件建築物はすべて除去できる状況にあった。しかも、原告は、被告が代執行に着手しようとしたとき(平成三年一一月一三日午前中)に、被告に対し、本件B・C・Dの建物についても順次撤去することを申し入れ、被告もいったんこれを了承した。

それにもかかわらず、被告は、同日午後三時頃、B・Dの建物の撤去を開始した。

したがって、本件行政代執行は必要性を欠くものであって違法である。

(二) 納付命令の内容である金額は、代執行に要した費用であるから、納付命令と代執行は密接に関連する。したがって、納付命令が適法であるか否かは代執行が適法か否かにかかり、代執行が違法であればその費用の納付命令が違法となる。仮に、右主張が認められないとしても、原告が自発的に代執行の対象たる建築物の撤去作業を開始していたにもかかわらず、被告が代執行を行い、そのために出捐した費用を原告に負担させる納付命令は、違法である。

2  被告

(一) 代執行行為と納付命令とは、「一個の手続を構成する」ものではなく、別個の手続を構成するものであるから、両者は違法性が承継される関係にはない。

(二) 仮に、代執行行為の違法性がその費用の納付命令の違法事由となるとしても、以下のとおり本件代執行行為は適法なものであり、したがって、本件納付命令も適法である。

原告は、除却命令の履行期限である平成三年九月三〇日までに除却義務を履行せず、被告が代執行に着手しようとしたときに、自ら撤去する意思を明らかにした。このため、被告は、原告の自己撤去作業を監視していたが、遅々として進まず、いわゆる引き延ばしであることが明らかであった。

それゆえ、被告は、本件建築物の一部の除却を原告にまかせ、その余のB・C・Dの建物について、行政代執行により除却したのである。

したがって、本件行政代執行は適法である。

第三争点に対する判断

原告は、本件代執行の違法性をもって、代執行に要した費用の納付を命じた本件納付命令の違法事由であると主張する。

しかし、行政代執行とそれに要した費用の納付との関係についてみると、代執行費用の納付は代執行に後続し、代執行の終了を前提とするものではあるが、本来別個の手続きに属し、それぞれ独立の法律効果を有するものである。このことは、行政代執行法が、費用の徴収について、「実際に要した費用の額及びその納期日」を別に定めて、納付命令を下し(同法五条)、国税滞納処分(国税徴収法)の例によってこれを徴収する(同法六条一項)と規定していることからも明らかである。

したがって、代執行が不存在または無効でない限り、その間に先行後続の関連性があるとしても、先行行為たる代執行の瑕疵が後行行為たる納付命令の瑕疵を構成するものではない。それのみならず、本件全証拠によっても、本件代執行につき、無効事由があるとか、原告主張のような違法な点があるとは認められない。

よって、原告の主張は理由がなく、本件納付命令は適法であって、これに違法な点は認めることはできない。

第四結論

以上のとおりであるから、原告の請求は理由がない。

(裁判長裁判官吉川義春 裁判官中村隆次 裁判官佐藤洋幸)

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